The Road to Next Gen Ludens

PlayStation, PSVR, ゲームなど興味のあるモノコト。

(全文日本語訳) WIRED独占記事(1): ソニーの次世代プレイステーションがもたらすもの

f:id:keepitreal:20200417103131j:plain

独占記事: ソニーの次世代プレイステーションがもたらすもの

ピーター・ルービン (Peter Rubin, WIRED U.S. 寄稿編集者)

2019年4月16日

2019年のうちには期待できない、しかし次のPlayStationコンソールは着実に近づいている――レイトレーシングのサポートと、ロードする時間を消してしまうソリッド・ステート・ハードドライブ(SSD)を詰め込んで――。

 

マーク・サーニーは今ここで、一つはっきりさせたいことがある。ソニーが4年間かけて作ってきたビデオゲーム機は、単なるアップグレードではないのだと。

いやアップグレードだ、と考える人にも十分な理屈がある。ソニーMicrosoftの両社は、Xbox OnePlayStation 4のミニ後継機(Xbox One XとPS4 Pro)を生み出すという、コンソール(据置型ゲーム機)世代の半ばで刷新を図ったことで、現行のゲーム機世代の寿命を延ばした。

「問われるべきことは」とサーニーは言う。「そのゲーム機が、ユーザーがもう知っている体験に新たなレイヤーを重ねるだけなのか、あるいはゲームという存在を根本的に変えられるのか、です」

 

今回のケースでは、後者が解答だ。それは我々が、カリフォルニア州フォスターシティのソニー(編者注:Sony Interactive Entertainment)本社会議室に座っている理由であり、ここでサーニーがついに、PS4に取って代わる名称未定ゲーム機の内幕を詳細に語ったのである。

歴史の言うことに従えば、いずれは「PlayStation 5」と呼ばれるだろう。さしあたり今は、サーニーは謎めいた笑みを浮かべながらこの質問――他にも色々とだが――に答えている。

彼が何度も言及する「次世代コンソール」は、2019年のうちに店先に並びはしないだろう。だが多くのスタジオが開発に取り組んでいて、ソニーはこのところ、ゲームクリエイターが次世代機能に慣れる十分な時間を持てるように、開発機の配布を加速した。

 

PS4でそうだったように、サーニーは次期システムのリード・システムアーキテクトであり、開発者の要望と、自らがゲームに望むことを融合させ、進化というより遥かに革命的なものにした。9000万人を超えるPS4ユーザーには、実に嬉しいニュースだ。ソニーは真新しいボックスを入手した。

本当の世代交代には、いくつか基礎の打ち直しが含まれている傾向がある。

ゲーム機のCPUとGPUがより強力になり、これまでにないグラフィックスの忠実度と視覚的な効果とを実現できるようになった。システムメモリのサイズとスピードが増し、ゲームのファイル容量も増大して、より大きなダウンロードか、ディスク等の物理メディアも大容量化が必要になるのだ。

PlayStation次世代ゲーム機は、デバイスの心臓部へAMD製チップを載せたことをはじめとして、それ(真の世代交代)を全てを満たしている(警告:以下、アルファベット入りスープ)。

CPUはAMDの第3世代Ryzenシリーズをベースとし、同社の新しい7nm(ナノメートル) Zen2マイクロアーキテクチャの8コアを搭載する。GPURadeonのNaviファミリーのカスタム版で、3D環境での複雑な相互作用をシミュレートするため、光線(レイ)の移動を模式化する技術である「レイ・トレーシング(光線追跡法)」をサポートする。レイトレーシングはハリウッド定番の視覚効果であり、ハイエンドのプロセッサやNVIDIAが最近発表したRTXシリーズに徐々に導入され始めてはいるが、これを扱えるゲーム機はまだなかった。今までは。

 

レイトレーシングですぐに得られる恩恵は、主としてビジュアル面だ。シーン内のオブジェクトとオブジェクトとの間で、光が跳ね返る(バウンス)さまを模倣することから、ガラスや液体を通した反射面や屈折作用をリアルタイムであってもより正確にレンダリングでき、リアリティが向上するのだ。サーニーによれば、(レイトレーシングの)活用方法はグラフィック面だけに留まらないという。

「プレーヤーにある音源が聞こえるかどうか、または敵にプレーヤーの足音が聞こえるかどうかテストしたい時に、レイトレーシングが便利です」と彼は言う。「環境の中で光が射すのと同じことです」

 

AMD製チップには3Dオーディオ用のカスタムユニットも搭載されていて、これはビデオゲームサウンドを再定義するものだと、サーニーは考えている。

「ゲーマーとしては」と彼は言う。「PlayStation 3PlayStation 4との間でオーディオがあまり変わらなかったことに、少々不満がありました。次のゲーム機の夢は、ハードウェアの馬力を大幅にアップさせることでオーディオ体験がどれだけ劇的に変わるのか、お見せすることです」

サーニーによると、音が上から、後ろから、横から聞こえてきて、その結果ゲームでより没入感を得られるという。この効果は余計なハードウェアを必要としない――TVスピーカーとバーチャルサラウンドサウンドで機能する――が、「ゴールド・スタンダード」はヘッドフォン・オーディオだと彼は認めている。

 

サーニーがオーディオを説明するために使う言葉の1つは、おそらくバーチャル・リアリティ(VR 仮想現実)に詳しい人にはなじみ深い「プレゼンス(実在感)」――シミュレートされた環境の中で、自分が生きているという感覚――だ。

それに彼が言及すると私は、2016年の発売以来400万台以上売れた周辺機器システム「PlayStation VR」について尋ねた。具体的には、この次世代ゲーム機に対応する次世代のPSVRはあるのかどうかを尋ねてみた。

「今日はVR戦略の詳細には触れません」と彼は言う。

「言うまでもないことですが、VRは私たちにとって非常に重要ですし、現行のPSVRヘッドセットは新しいゲーム機と互換性を持ちます」

 

なるほど。新しいCPU、新しいGPU、ゲームにかつてないほどのビジュアルそしてオーディオ・エフェクトを実現させる性能(そしていつか、PSVRの後継機も)。

それは素晴らしいことだが、サーニーをもっと興奮させるものは別にある。

彼が「真のゲームチェンジャー」と呼ぶもの、他のどんなものよりも「次世代への鍵」となるもの。それはハードドライブだ。

 

昨年発売された『Red Dead Redemption(レッド・デッド・リデンプション)2』のPS4版では、99GB(ギガバイト)というとてつもない大容量を記録したが、ゲームが大きくなればなるほど、何をするにも時間を食うことになった。

ゲームがハードドライブから必要なデータを引き出す間、ロード画面が数分続くこともある。またゲームの世界で、キャラクターが遠く離れた場所に移動する「ファスト・トラベル」も同じだ。

「ドアを開ける」だけで、向こう側にあるものやゲームがロードしないといけないデータの量によっては、1分以上かかることすらある。

2015年秋にサーニーが、開発者が次世代に何を求めているのか、彼らと話し合いを始めたときから、何度も何度も耳にしたのはこれだった。
無理だとはわかってるが、SSDを載せられないか?

 

サーニーはデモを行うためPS4 Proを起動し、Insomniac Games(インソムニアック・ゲームズ)と共同で開発した2018年発売のPS4専用ソフト『Marvel's Spider-Man(マーベル・スパイダーマン)』をプレイした。

(彼は単なるシステム・アーキテクトではない。サーニーは19歳の時、アーケードの名作『Marble Madness(マーブル・マッドネス)』を開発し、『Crash Bandicoot(クラッシュ・バンディクー)』や『Spyro the Dragon(スパイロ・ザ・ドラゴン)』、『Ratchet and Clank(ラチェット&クランク)』などのPlayStationPS2のシリーズタイトルにも深く関与したのだ)

テレビでは、スパイディが小さな広場に立っている。サーニーがコントローラーのボタンを押すと、ファスト・トラベル中の画面に入った。スパイディが、マンハッタンの全く別の場所にまた現れた時には、15秒が過ぎていた。

その後サーニーは、別のテレビに接続された次世代の開発機で、同じことをした(初期の「低速」バージョンの開発機は大きな銀色のタワーに隠されており、中の構成部材は見えなかった)。

15秒かかっていたものが1秒以下になった。正確には、 0.8 秒だ。

 

SSDのもたらす成果、これはその一つに過ぎない。ゲームの世界をレンダリングする速度、つまりキャラクターがその世界を移動できる速度にも影響する。

サーニーはまた同じようにコンソール2台のデモを行うが、今度はミッドタウンの大通りの1つをカメラが上っていく。ベースモデルのPS4では、スパイディがウェブスリングで移動するくらいのスピードでカメラが動く。

「どれだけスパイダーマンがパワーアップしても、これ以上のスピードは出ません」とサーニーは言う、「これが、ハードディスクからデータを取り出せるスピードなんです」

次世代ゲーム機では、カメラは戦闘機に積まれているようなスピードで街を疾走する。

一定の間隔をおきつつサーニーは動作を一時停止して、周囲の環境が完璧に鮮明な画面であることを証明する。

(次世代ゲーム機は8Kグラフィックスに対応しているが、それを提供できるTVはほとんどないため、我々は4KTVを使用した)

 

他に何ができるのか、開発者たちがまだ把握しきれていないのでサーニーもまだ答えられない。しかし彼は、SSDは全く新しい時代を開き、ゲームの基礎になっている「お約束」を一変させると予想する。

「私たちは、ゲーム開始時に飛び交うロゴや、グラフィックを多用した選択画面に慣れています」と彼は言う。

「マルチプレーヤーゲームのロビーとか、意図して事細かになっている装備画面などもありますが、それもプレイヤーを待たせたくないからです」

 

今のところソニーは、SSDの寸分違わぬ細部――どこが作ったのか、新しいPCIe 4.0規格を使用するのか――を明らかにするつもりはないが、サーニーによれば、PCで利用可能などんなSSDよりも、非圧縮時の帯域幅が大きいという。

それだけではない。

「非圧縮データの読み込み速度も大切ですが」とサーニーは言う、「I/O(入出力)装置の細部と、その上に配置するソフトウェアスタックも重要です。私はPlayStation 4 Proを買い、それからPlayStation 4 Proと同じくらいの値段のSSDを入れました。3分の1に(速く)なったかもしれません」

ファスト・トラベルのデモから判断して、次世代ゲーム機は19倍高速だ。

 

お気づきのように、これは全てハードウェアの話だ。サーニーはゲームのことや価格はもちろん、サービスやその他の機能についても話をする準備ができていないし、ソニーの誰もがそうだ。6月のE3でも、新型ゲーム機の話はあまり聞かれないだろう――ソニーが毎年恒例のゲームショーで基調講演を行わないのは初めてだ。

しかし話している内に、さらにいくつか明らかになったことがある。

例えば、次世代機は物理メディアに対応すること。ダウンロード専用マシンにはならない。

PS4アーキテクチャを一部ベースにしているため、そのゲームと後方互換性があること。他で見られた多くの世代交代と同じように、今回も穏やかなものになるだろうし、PS4と次世代機との両方で、ゲームが多数発売されることだろう。

(小島秀夫の新作『Death Stranding(デス・ストランディング)』がどういった位置づけになるのかはまだ未確認だ。会議室にいた広報担当者に訊くと、PS4用に発売されると繰り返した。が、サーニーの笑顔と意味ありげな沈黙は、実際には両方のプラットフォームで発売されるのではないかと憶測させるのだ)

 

10年後はおろか、1年後、2年後にゲームがどうなっているのかも議論の余地がある。

「バトルロイヤル」ゲームはマルチプレーヤーの体験を変えた。

AR(拡張現実)は従来なかった手法で空想と現実を融合させる。

Googleクラウドゲームサービス「Stadia」を今年中に立ち上げ、従来のゲーム機から抜け出して先頭に立つ。

Microsoftの次期Xboxはおそらくクラウドゲームも統合して、複数デバイスXboxゲームをプレイできるようになるだろう。

この点、ソニーの方針がまだはっきりしない――これはサーニーが口をつぐむことの一つで、「私たちはクラウドゲームの先駆者であり、発売に向けて私たちのビジョンが明確になっていくはずです」とだけ述べていた――が、今後ニュースが出てこないとは考えにくい。

 

とりあえず今は、リビングがある。PlayStationは4世代にわたりここに置かれてきた。少なくとももう1世代、置かれ続けることになるだろう。

 

〈元記事〉

〈続編の翻訳記事〉