(全文日本語訳) WIRED独占記事(2): PlayStation 5を深く理解する
独占記事(2): PlayStation 5を深く理解する
ピーター・ルービン (Peter Rubin, WIRED U.S. 寄稿編集者)
2019年10月8日
正式名称が発表された今、ソニーの次世代ゲーム機について、ハプティクス満載のコントローラーからUIの改善に至るまで、さらに詳しい情報を得ることができた。
初代「PlayStation」が1994年に発売されてこのかた、ソニーの家庭用ゲーム機シリーズは「数」にこだわってきた。
「Super」も付かず「Max」もなく、「コードレッド・エクストリーム」もなく。
ただ、PlayStation 2、3、そして4と。
この揺るがない一貫性があったので、次のバージョンの名前は最も技術的な面においてのみ問われていたのだが、SIE(ソニー・インタラクティブエンタテインメント)の最高経営責任者(CEO)であるジム・ライアン(Jim Ryan)氏は、既に答える用意があるという。
このゲーム機は「PlayStation(プレイステーション) 5(ファイブ)」と呼ばれる、と氏は語った。
「これを言えてよかった」と彼は言う。「大変な重荷を肩から降ろしたような気分ですよ」
さて。ではどうぞ、
PlayStation 5、2020年ホリデーシーズンに登場です。
ソニーは、この4月、まだ「次世代ゲーム機」としか呼ばれていなかったものの開発状況をWIREDが報じて以来、このゲーム機については多くを語らずに来た。事実上、同社は何も言っていない。
ソニーは今年のE3でのゲームショー開催を見送ったが、その空白の間にMicrosoftは、彼らの次世代機であり、Xbox Oneの後継であるProject Scarlett(プロジェクト・スカーレット)と呼ばれるものの詳細を発表した。
PS5と同じく、ScarlettはAMDのRyzenラインがベースのCPUと、NaviファミリーがベースのGPUとを誇り、PS5と同じく、回転するハード・ドライブを捨て、ソリッド・ステート・ドライブ(SSD)を採用した。
しかし今、ライアンと、システムアーキテクトのマーク・サーニー(Mark Cerny)は、ソニーの米国本社(編者注:アメリカ・サンマテオにあるSIEヘッドクォーター)の会議室で、熱心に具体像を分かち合おうとしているのだ。
その前に、サーニーはあることを明確にしたいという。
前回、来るべきゲーム機の話をしたときサーニーは、3D環境の中で複雑なライティングや音響効果を可能にする「レイ・トレーシング」への対応機能について語った。
それ以降に多くの質問を受けたことから、彼は、PS5がこれをいかに実現するかについて曖昧だったのではないかと危惧し、一部が懸念するような「ソフトウェアレベルの修正」ではないことを確認した。
「GPUハードウェアには、レイトレーシング・アクセラレーション(編者注:レイトレーシング処理を行うハードウェア実装)があります」と彼は言う。
「これは、皆さんが求めていた声明だと思います」
(確かに私自身のTwitterへのメンションからすると、4月の数週間、インターネットが注目したのは確かにグラフィックスレンダリングの技術だけのようだった)
これを前提にしつつ、PS5のソリッド・ステート・ドライブの話に戻ると、サーニーが最初に称揚したのは、面倒なロード時間を一瞬に変えるという点だった。
SSDをおそろしく優れたものにしているのはスピードだけでなく、その効率性の高さだと彼は言う。
ゲーム機のハードドライブが、5,400rpmのレコード盤のように回転していることを想像してほしい。
ゲーム機がドライブから情報を読み取るためには、まずディスクヘッドを(ターンテーブルの針のように)送り出して見つける必要がある。いわゆる「シーク(走査)」はほんの一握りのミリ秒で済むかもしれないが、シーク回数は増えていく。
シークを最小限に抑えるために、開発者は多くのケースで、特定のゲームアセットをコピーして連続したデータブロックを形成し、ドライブ読み込みを高速化している。ここでは、街灯や匿名の通行人などありふれたものを使っている。
しかし、データも蓄積されていく。「『Marvel’s Spide-Man(マーベル・スパイダーマン)』のようなゲームを見てみると」とサーニーは言う。「データの一部がハードドライブ上で400回も複製されています」
SSDはそういったコピーの必要性を一掃してくれるので、非圧縮データの読み込み速度がハードドライブよりも劇的に速いだけでなく、非常に重要なスペース(容量)も節約できる。
開発者がこの空きスペースをどのように活用するかは、おそらく異なるだろう。
より大きな、またはより精緻なゲーム世界を構築することを選ぶ人もいれば、ゲームやパッチのサイズを縮小することに満足する人もいるだろう。
いずれにせよ、PS5のゲームパッケージは100GB(ギガバイト)の光ディスクを使用し、4K Blu-rayプレーヤーを兼ねた光学ドライブに挿入してプレイすることになる。
ただし、ゲームのインストール(SSDと光学ドライブの速度差を考えれば必須だ)についてはPS4とは少し異なる。
今回は、SSDでゲームデータを簡略化できたこともあり、ソニーはストレージへのアプローチを変更し、ゲームのインストールやリムーブ(削除)のプロセスは、設定変更がより自由になった。
「ゲームを大きなデータブロックのように扱うのではなく、データへのきめ細かいアクセスを可能にしています」とサーニーは述べる。
つまりゲームのマルチプレイヤーキャンペーンだけをインストールして、シングルプレイヤーキャンペーンは別の機会に残しておく、あるいはゲーム全体をインストールして、シングルプレイヤーキャンペーンを終えたら削除する、といった機能を意味する。
ゲームのどのパートをインストールしてプレイしても、完全に刷新されたユーザーインターフェース(UI)を通して、ゲームを最新状態にすることが可能となる。
PS4の素っ気ないホーム画面は、時として琥珀に閉じ込められた生き物(編者注:きれいだが実際には生きていない様)のように感じられた。
フレンドが最近何をしたか、その時どんなゲームをプレイしているかは見られるけれども、ゲームを起動してみないことにはどんなシングルプレイヤーミッションが可能なのか、参加できるマルチプレイヤー対戦は何か、知る方法はなかった。
PS5はそれを変えるだろう。
「ゲームの起動は相当速くなりますが、プレイヤーがゲームを起動して、何かあるか確認し、また別のゲームを起動して、確認し……というのは必要ありません」とサーニーは言う。
「マルチプレイヤーゲームのサーバーは、参加可能な一連のアクティビティをリアルタイムにコンソールに提供します。
シングルプレイヤーゲームでは、プレイできるミッションや、ミッション達成で受け取れるリワードなどの情報が提供され、これらの選択肢は全て、UIに表示されます。プレイヤーとしては、やりたいことをすぐやれるわけです」
彼は同じように、他にも多くのことを語った。自分が話したいことを超えて迫ろうとするこちらの質問を、彼はかわすことを知っている。たとえば、UIは実際にはどんな風に見えますか?または、SSDはどれくらいの容量ですか?などだ。
またこうも尋ねた、「それはマイクですか?」
それはまさに、サーニーが次世代コントローラーのプロトタイプを私に手渡してくれたときだった。PS4のDualShock 4に酷似した、ラベルのない、マットブラックの「何か」を。
しかもそれには小さな穴があいていて、最近公開された特許によれば、ソニーがPlayStation用の音声認識AIアシスタントを開発しているというのだ。
しかしサーニーから聞けたのは「その件は、また別の機会に話しましょう」だけだった。(後に広報担当者は「私たちは定期的に特許出願をしています」とコメントした。「多くの企業と同様に、それら特許の中には製品化されるものもあれば、されないものもあります」)
そのコントローラー(それがDualShock 5と呼ばれる日が来るだろうことは歴史が示す通り。だがサーニーは「まだ名前がないんです」と言うだけだ)には、サーニーがより興味を惹かれているいくつかの機能があることを認めている。
1つは「アダプティブ(可変適応)トリガー」、これはゲーム内で弓を引く際に、抵抗力のレベルを変化させて実物のような感触をもたらすという。ちょうど、弓の弦(つる)を引き取るにつれて張力が上がっていく様、あるいは、マシンガンはショットガンの射撃とは全く違うのだと感じさせることができる。
もう1つは「ハプティック(触力覚)・フィードバック」であり、コントローラーの左右のグリップに内蔵した「高度にプログラムが可能なボイスコイル・アクチュエータ」によって、今までコンソールゲーマーが慣れ親しんできたランブル(振動)モーターより遥かに高度な表現を実現したという。
この「ハプティクス」は、コントローラーについている改良型のスピーカーと組み合わせることで目覚ましい効果を発揮するのだ。
私はまず、PlayStation VRの『Astro Bot: Rescue Mission(アストロボット:レスキューミッション)』をデザインしたJapan Studioチームの好意により、それら一連の短いデモをプレイしてみた。
中でも、一番強く印象に残ったのは、私は地表面が異なる様々なステージでキャラクターを走らせたのだが、その全てにおいて特徴的な――そして驚異的なほど没入的な――触れる感覚を体験したことだ。
砂はゆっくりとして緩慢であり、泥は鈍い上にぐちゃぐちゃしていた。氷上では、反応が高感度であるおかげで、サムスティックを動かすと私のキャラクターが本当に滑っていくように感じたのだ。プールに飛び込めば、水の反発を感じとれた。木でできた橋の上では、弾むような感覚があった。
次は、ソニーがPS5の開発機に移植した『GranTurismo Sport(グランツーリスモ・スポーツ)』だ。一見すると先週、Gizmodoがレポートしたものとよく似ている(ソニーは、この開発機の仕様が一般向けの製品版と比較するとどうなのか、という質問にはコメントを拒否した)。
舗装路とダートの間、縁石を跨いで走行すると、それぞれの路面を感じ取れた。PS4のDualShock 4を使って同じコースで同じことをしたが、その感覚は完全に消えてしまった。
新しいものと比べて伝統的なランブルフィードバックが小さい、ということではなく、フィードバックが全然ない。
ユーザーテストで、ランブルフィードバックは連続使用するとあまりにも疲れるという結果が出たため、製品版の『GT Sport』では全く使われなかったのだ。
ようやく、その違いを見せる時が来た。
(SIE)プロダクトマネジャーの青木俊雅氏によれば、コントローラーチームはDualShock 4の開発時から、ハプティック・フィードバックに取り組んできたという。
中間世代に当たるPS4 Proにそれを搭載することもできたが、それはゲーマーにとって「分断された体験」を引き起こしてしまうため、一連の機能は次世代機に取って置かれたのである。
DualShock 4からの小さな改良点は他にもいくつかある。
次世代コントローラーは、充電にUSB Type-Cコネクタを使用する(ケーブルを挿しながらのプレイも可能)。
大容量バッテリーとハプティクスモーターを搭載しているため、新コントローラーはDualShock 4より少し重くなるが、青木氏によると、現行のXboxコントローラーへ「電池を入れたとき」よりは、少し軽くなるだろうとのことだった。
ゲームスタジオがこれら全ての新機能をどう使うか――SSDやレイトレーシング・アクセラレーションといった既知のものから、コントローラーやリアルタイムUIのような新しい機能まで――それは依然として、推測の域を出ない。
多くのスタジオはPS5開発機を既に持っているが、コントローラーのプロトタイプは最近、提供され始めたばかりだ。そしてPS5用に開発しているタイトルを、具体的に明かせる人は誰もいない。
「私たちはいま、大きなプロジェクトに取りかかっています」とBluepoint Games(ブルーポイント・ゲームズ)プレジデント、マルコ・スラッシュ(Marco Thrush)は言う。
彼らの直近の仕事は、昨年発売したPS4リメイク版『Shadow of the Colossus(ワンダと巨象)』だ。
「あとは、ご想像にお任せします」
しかし、彼らが無難な道から飛び出さなかった訳ではない。
「SSDは本当に楽しみです」とスラッシュは言う。
「作為的にプレイヤーの動きを遅くしてドアの後ろで待たせたりとか、そういったゲームプレイをごまかすようなことはもう一切、要らなくなるんです。
ゲームカートリッジで遊んでいた時代、ゲームは即座にロードされていました。私たちは、かつてのゲーム機に戻ろうとしているんです」
「具体的にご説明できることは、アンビエント・オクルージョン(編者注:環境光が遮蔽されている程度を演算してレンダリングする)技法の実験や、レイトレース・シャドウの調査などですね」と、EA(エレクトロニック・アーツ)のチーフスタジオオフィサー、ローラ・ミーレ(Laura Miele)は言う。
「より一般的に申し上げれば、ゲームプレイやその他のツールの、ありとあらゆる本当に興味深い進歩のために、GPUがマシン・ラーニング(MI 機械学習)を強化していくでしょう」
とりわけミーレは、何もかも全部、スピードが次世代のゲーム機を定義すると加えた。
「私たちは即時性の世代に踏み込んでいます。モバイルゲームではゲームはすぐにダウンロードでき、始めてから数回のタップですぐにプレイできることを求められます。
いま私たちは、それを大きなスケールで取り組めるようになったんです」
ジム・ライアンはわかっている。(編者注:冒頭の正式名称のように)また肩の重荷が下りたとき、そうした挑戦は非常に楽になるのだ。
だから、正式な「PlayStation 5」にご挨拶をどうぞ。
近いうちに、実際の姿がどう見えるか、誰もが知ることになるかもしれない。
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